キミと一緒の 秋を迎えに 
         〜かぐわしきは 君の… 4 番外編
 
 
 “神様の悪戯”



     2




そう、長々と引っ張った割に、
途中からとっくにお察しの方も多かったでしょう、
イエス様がブッダ様に見られてはならぬと恐れ、
真っ赤っ赤になってその口許を隠したのは。
一応、男らしさの象徴としてもいたのだろ、
手入れも怠らなかった唇の上と顎下にあったお髭が、
双方ともに、きれいさっぱりと消えていたから。

  しかもしかも

いやにすっきりしてしまったそのお顔が、
いやに幼くなってしまったの、
誰より自分で気がついてしまってのこと、
ブッダには見せられないっと焦ってしまったのであり。

 「だって、私、
  ブッダには頼られたいって常々思っているんだのに。///////」

約束したのに笑うんだものと、怒っているのは変わらぬか。
ブッダが花粉症のおりに使ったのの余り、
不織布製のマスクをかけると、
その下をめくり上げつつ、美味しい蒸しパンを頬張るヨシュア様であり。

 「ああもうっ。食べにくいし、息がしにくいっ。」

きぃっとヒステリーを起こしかけるのへ、
おいおいと、淹れたてのミロと苦笑とを差し向けて、

 「だったら外しなよ。
  ……いや、もう笑わないから。ね?」

告げた途端に ちろんと寄越された眼光の鋭さへ。
理不尽なことへは滅多に屈しないブッダが、
それを測るまでもなくという勢いで、
すぐの速攻で“お願いだから”と言い足したほど、
見るからに気が立っておいでのヨシュア様であり。

  ……とはいえ

ブッダに何の罪もないのは明らかな事態だし、

 「………蒸しパン、美味しい。」
 「そお? まだあるからどんどん食べてね。」

こっちがサツマイモで、こっちはカボチャが入っているんだよ?
あ、こっちは見た通りのミロ味にレーズン入りだからねと、
可愛らしいカップケーキ風に作ったふわふかなおやつを、
スチームオーブンレンジから丁寧に取り出すブッダなのを見るにつけ。
そのふんわりとした所作や笑顔に、

 “ああ、やっぱりブッダは優しいなぁ嬉しいなぁvv”

と感じ入り、多少は心の痛手も和らいだものか、

 「もう怒ってないから、あのね?」

一緒に食べようよ?ということだろう、
ブッダもお取りよと大皿を差し出すところが
イエスの相変わらずな、罪のない可愛らしさというやつで。
ではと、自分も卓袱台の傍へ腰を下ろし、
甘さも蒸し上がりのしっとり感も上出来の、
お手製蒸しパンを1つ、手に取ったブッダだったものの、

 「………。」
 「…また笑う?」

こそりと訊かれて、
じゃあなくてと言いたいか、ぶんぶんとかぶりを振ってから、
だが、ついつい視線が向かってしまうのは もうもうしょうがない。
くどいようだが、本来なら男らしさの象徴だろう、
それも無精なそれではない、
きちんとまとまったタイプのお髭があっても。
愛想のいい、可愛らしい印象が拭えぬ人だったイエスから、
その髭が無くなってしまっては、

 「何か随分と若くなっちゃったなぁって。」

瞼や頬への肉付きが薄くって、
それだからか、それなりに大人びたお顔だと思ってたし、
その造作自体はまるで変わっていないはずなのにね。
手を挙げて、いぃい?と目顔で訊けば、
チョコレート色のミロ味のの端っこを咥えつつ、
うんと頷くイエスだったので。
そおと、なるだけ優しく頬に触れ、
そのまま鼻の下や顎先をも撫でてみたが。
剃りましたという感触もなくの、
ただただすべすべとしている肌であり。
そんなせいで、尚のこと ずっと年若な印象が強まってもいて。

 「……。」

すぐそばのお隣り同士で座っているそのまま、
こつりと、おでこへおでこをくっつければ、
???と小首を傾げる所作がまた、

 “うあああっっ、何て可愛らしいっっ!!/////////”

……何せ、日頃のイエスのやることなすことというのが
まずはの下敷きになっているブッダ様なので。
淡い色合いの玻璃の瞳も、細い鼻梁もそのままな上へ、
そもそもからして、線の細かった口許やおとがいから、
そんな印象を隠したいようなお髭が消えたものだから。
これはもうもう、
イエス似の端正な美少年が現れたような
錯覚に襲われても致し方がない…というのは、あまりに大仰か。

  とはいえ、

  これも忘れてはいけない、
  中身はちいとも変わっちゃあいないワケで。

もきゅもきゅ・むぐむぐと
素直に蒸しパンを頬張っていたら、
いつになく積極的に、
自分からおでこをくっつけて来たブッダだというコトの流れへ、
イエスとしては、何だ何だとキョトンとしていただけのこと。
とりあえず、頬張っていたおやつをこくんと飲み込むと、
至近へと近寄ってくれていた愛しいお人の首っ玉へスルリと腕を伸ばし、
そのまま、ぎゅうと抱き着いてしまっても。
これはもう、いつものことという展開だったはずだのに、

 「あ、わ、えと…あのその、えっとぉ。////////」

どうしたことか、ブッダの反応が微妙に違う。
多少は赤面してのドキドキしつつも、
このごろでは向こうからも
ありゃまあという朗らかさでもって、
ぎゅううを返してくれるようになっていたものが。
自分の手をどこへどう置けば、どう回せば良いのものかと、
そこからして今更戸惑っているらしく。

 「ブッダ?」

 「ご、ごめんっ。
  何か、あのその、
  イエスじゃあないみたいな気がして。//////」

瞳の色も伸びやかな声も、
温みも匂いも髪の跳ねようも腕の堅さも、
どこもかしこも同じなのに。
くっつけた頬とか、懐ろのここ…鎖骨のとことかに
お髭の先がチクリと来ないのが何か違くって。
なのに こんなにドキドキするなんて、

 「これって浮気心なのかなぁ?////////」
 「えっとぉ?」

どうやらブッダはブッダで、
何だか別次元の困惑に揺れておいでだったらしくって。
そのくせ、

 「あ・そうだ、写メ撮っていい?
  勿論、誰にも見せないから。
  私だけの宝物にするから。ね? いいでしょ?」

そんなことを言い出すところなぞ、
余裕あるじゃあないですかと、
ついつい思わずにはいられなかったイエスであり。

 「…ブッダって実は、年下であればあるほど良いの?」
 「何てこと言いますか。」

途端にきりりとお顔を引き締め、
凛然と否定したのでそれはないらしかったけれど。
ただ、何枚か撮らせてもらったスマホを口許へと当てて、

 “イエスが
  螺髪が解けたわたしへ“可愛いvv”とはしゃぐのが、
  今なら判らなくはないような…。”

内心でこそりと呟いたブッダ様だったのは、
ここだけの話だったりするから、皆様もどうかご内密にvv

 「……ブッダ、何か良からぬこと想像してない?」
 「してないしてない。///////」

さすが神の子、鋭い鋭い。
日頃以上に鋭いのは、
気がささくれていて落ち着けないからかも知れないと、

 「何か気になるの?」

茨の冠を避けつつ、
深色の髪を手櫛で梳いてやっての訊いてみれば、

 「あのね、明日には戻ると梵天さんは言ってたけど、
  ホントに大丈夫なのかなぁ?」

本気で心配ならしい彼なのへ、

 「あれでも一応 天部だもの、嘘はつかないよ。」
 「…それって、どこへどう信用を置いたら良いのかな?」

天部ともあろう者が致した悪戯が発端なんだよと、
ややもすると目が据わってしまったイエス様。
腹立ち紛れにひょいっと膝立ちになってのあっと言う間、
こんなことへ手際がよくなってもどうかという鮮やかさで、
愛しの如来様のふわふかな唇へ、
むにと咥えるよなキスを仕掛けたところが。

 「……っ。////」

そこはやはり変わらぬ感受性の為せる何とやらだからか、
福耳まで真っ赤になったそのまんま、
螺髪がさあ…っとほどけて、
深色の髪が愛らしいお顔の白を
鮮やかな拮抗でふちどってゆく見事さよ。

 「あ…。//////」

いきなりのことだったからか、
呆然として目を見張ったままのブッダだったの、
少しは…悪いことしたなとでも思うのか。
ほどけた髪ごと、
ぎゅうと懐ろへ抱いてしまうイエス様だったけれど。

 “…えっと。//////”

やはり口ひげのチクチク感がないからか、

 “な、なんか
  子供とキスしてるみたいだったなんて言ったら。”

きっとイエスは怒るんだろうなぁと、
その当の、愛しきお人の胸へ抱かれたまま、
なんとも斜めな疚しさを抱えておいで。
それぞれ互い違いなことをこそりと思い合ってる二人なのであり。


  罪作りな悪戯をした張本人の天部様、
  鼻歌交じりに天界へお戻りなところから察するに、
  イエス様のことがますますお気に召したかも知れずで。
  ブッダ様、いかな苦行を持ち込まれるか以上に
  そっちへも警戒せねばだぞ、これからは。(笑)






   〜おそまつ〜  13.10.05.


  *意味深ですが、その実、
   ちいともひねってないタイトルでございますね。(笑)
   あの屈託のないイエス様から、
   愛嬌の象徴のようなお髭が無くなったら…。
   これもまた使い古されたネタなんでしょうが、
   ウチのブッダ様は、
   うろこが何百枚も重なった目で相方様を見ているので、
   あああ、またもや素敵なイエスが降臨して…//////と、
   悶絶すること間違いないかと思いまして。(こらっ)


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